目の前の男

「注文したモノがまだ届かないんだけど、どういう事だ?」
部屋のドアを右足で吹っ飛ばして男は左足から中に入ってきた。
黒い靴はピカピカに磨いてあって
その上にすらっとしわ一つない生地で出来たズボンをはいた男は
「とにかく、座らせてもらうよ」と言って、
Bさんの目の前の椅子、A氏がいつも座っている椅子に座った。
「まったく、いつまで待たせるつもりなのだね」
と男は目の前にいるBさんとは目も合わせないで
しきりにA氏の使っている机に散らばっている書類の束を
ペラペラと掻き分けたり眺めたりした。
「あのあなた誰です?」
Bさんは目の前に座っている男の目を見て言った。
男は左手人差し指をベロで浸して、
ペラペラと書類をめくりながら
チラリとBさんの目を見てまた書類に目を戻した。
「なんだ君は。私を知らないのかね。
 だったら私も君を知らないのだから、
 それに関して言い争ってもしかたがないからしない」
「あの、ここは私とA氏とCくんが一緒に仕事をしている部屋で、
 A氏とCくんは席をはずしてるんで、
 二人のどちらかに用があるんだったら私が伝えておくから、
 この紙に用件をまとめて置いて帰れ。」
「なるほど、A氏とCくんと君がつかっている部屋なのだな。
 なら私が使ったっていいだろうから
 勝手にこの部屋を使わせてもらうから
 お前はだまっていろ。」
Bさんは引き出しを開いてA4のコピー用紙を一枚取り出し、
空き缶に入っているボールペンを一本引き抜いて、
目の前に座っている男に投げつけた。
A4のコピー用紙はヒラヒラと目の前の男の前に落ちたが、
ボールペンは目の前の男の鼻にあたり床にクルクル転がった。
目の前の男はボールペンをチラリと見て
再び書類をペラペラめくり始めたので、
Bさんも再び空き缶に入っているボールペンを引き抜いて
目の前の男に投げつけた。
今度は目の前の男のあごにカツンとあたり、
目の前の男の目の前の書類の束の上に転がった。
「帰れ」とBさんは目の前の男に言った。
「うるさい」と目の前の男は書類を見ながらつぶやいた。
「帰れ」「うるさい」「帰れ」「うるさい」

やがて帰ってきたA氏とCくんに
目の前の男は叩き出された。
文字通り、A氏が殴りCくんが蹴り、
Bさんは空き缶のボールペンがなくなるまで
目の前の男に投げつけて、
目の前の男はこの部屋から叩き出された。
散らばったボールペンを3人で仲良く空き缶におさめた。