「山芋喰いな」とあの子が言った
「山芋喰いな」とあの子が言ったから
ぼくはこっそり山に出かけた。
山まで歩く。遠いことはわかっていた。
もう家族と顔を合わせることもないのだろう。
それくらい山は遠い。
あの子が言ったから。
ぼくは山芋喰いに山に向かった。
見上げたら山のようだ。
あれからどれくらい経ったろう。
ぼくは一度も髭を剃らなかった。
足元から垂れ下がった髭は
ズリズリとぼくの付けた足跡を消していく。
ぼくの証跡はズリズリと消え去っていった。
もう誰も山芋喰いにぼくが山に向かっていることなど知らないのだろう。
山を見上げて、悲しくなった。
「山芋喰いな」と言ったあの子も
ほかの誰かと結婚していて
たくさん子供を作ったのだろう。
山芋どこだ。
喰うぞ。山芋喰うぞ。
絶対山芋喰ってやる。
あの子のために。
もういないあの時のあの子のために。
山芋どこだ。山芋喰うぞ。
「山芋喰いな」とあの子が言ったのだから。